機能性素材研究

ペプチド

アレルゲン性の低減から機能性素材として
の開発まで多分野での技術革新を続ける。
森永乳業のペプチド研究
ペプチド

乳幼児をミルクアレルギーから救いたい。
アレルギー疾患用ミルクの開発からスタートしたペプチド研究

当社では1974年からミルクアレルギー症状をもつ赤ちゃんのための育児用ミルクの開発に取り組んできました。
研究が始まった当時、まだ日本では食物アレルギーやミルクアレルギーはあまり認知されていませんでした。

しかし、育児用ミルクを飲む赤ちゃんのなかに、まれに難治性下痢症と呼ばれる、非細菌性の重い下痢症状に苦しむ赤ちゃんがおり、その原因としてミルクアレルギーが疑われていました。当時の日本にはそのような重いミルクアレルギーを持つ赤ちゃんが使えるようなミルクはなく、専門医のなかにはわざわざアメリカからミルクを取り寄せ、治療に用いることもありました。

ラクトフェリン

そこで、重いミルクアレルギーを持つ赤ちゃんも安心して飲むことができるミルクを国内で製造することの必要性を感じた研究チームは、アレルギーの原因となる乳たんぱく質を酵素によって徹底的に分解した「ペプチド」を配合する新しいミルクの開発に取り組みました。
アレルギー反応はたんぱく質の特定の部位を生体が認識することで起こります。たんぱく質を分解してその特定の部位を破壊すると、アレルギー反応が起こらなくなることが知られています。この効果に着目して開発されたのがアレルギー疾患用ミルクです。

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ペプチドとは
  • ペプチドはアミノ酸が2〜50個程度つながった物質の総称です。私たちがたんぱく質を摂取すると体内の消化酵素の作用でペプチドやアミノ酸に分解されます。また、チーズやヨーグルトなどの発酵食品にも含まれており、ペプチドは非常に身近な物質です。
  • ペプチドの特徴はその多様性にあります。ペプチドは20種類のアミノ酸の組合せです。2つのアミノ酸の組合せであれば400種類(20×20)、3つのアミノ酸の組合せであれば8,000種類(20×20×20)のペプチドが存在します。ペプチドは生体内においてもホルモンなどとしてさまざまな生理機能に関与することが知られていることから、この多様性に注目してさまざまな生理活性ペプチドの研究が世界中で行われています。

たんぱく質、ペプチド、アミノ酸の関係性

アレルギー反応を引き起こすIgE抗体は、たんぱく質の特定の構造やアミノ酸配置を認識・結合することでアレルギー反応を起こし、小さなものでは5~6個程度のアミノ酸配列でも反応する場合があります。そのため、アレルギー反応を起こらなくさせる(低アレルゲン化)には、酵素消化によって断片化し、生じたペプチドを低分子化する必要があります。
牛乳たんぱく質の低アレルゲン化には、当時入手可能だったあらゆる分解酵素や、当社独自の乳酸菌酵素などを組み合わせて試作を繰り返し、ようやく患者血中のIgE抗体とほとんど反応しない、極めてアレルゲン性の低い乳たんぱく質分解物、ペプチドの開発に成功しました。

しかし、ペプチドを細かく分解するとアレルゲン性は低下する一方、ペプチドの苦味が強く出てきてしまう傾向があります。どんなにアレルゲン性を低減させたとしても、赤ちゃんが飲んでくれないミルクでは意味がありません。この矛盾を解決するために、いくつもの検証が行われました。研究を行うなかで、ある乳酸菌が苦みを低減する酵素を持っていることが判明し、ようやく乳幼児でも飲むことができるミルクの開発の目途がたちました。
この低アレルゲン化ペプチドを配合したミルクは、国産第一号のアレルギー疾患用ミルク《MA-1(エムエーワン)》として1977年に販売され、難治性下痢症で苦しむ赤ちゃんを救うことになりました。このミルクは開発から40年以上を経た現在でも《ニューMA-1》としてミルクアレルギーの赤ちゃんを支えています。

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MA-1
(左)1977年発売当時の《MA-1》 
(右)2021年現在の《ニューMA-1》

低アレルゲン化ペプチドを配合した当社の《ニューMA-1》は「特別用途食品の病者用食品(ミルクアレルゲン除去食品)」※として消費者庁の表示許可を取得しています。

※特別用途食品/乳児の発育や、妊産婦、授乳婦、えん下困難者、病者などの健康の保持・回復などに適するという特別の用途について表示を行う食品。特別用途食品として食品を販売するには、その表示について消費者庁長官の許可を受けなければなりません(健康増進法第43条第1項)。

特殊ミルクから育児用ミルクへの拡大

《MA-1》などの特殊ミルクで培ったペプチド製造技術は、今では一般向けの育児用ミルクにも活用されています。すべての牛乳たんぱく質を細かく分解し、赤ちゃんの消化能力の負担に配慮した《森永E赤ちゃん》は、赤ちゃんにやさしいミルクとして皆様から評価をいただいています。
アレルギーのある赤ちゃんも、そうでない赤ちゃんも。育児用ミルクを必要とするすべての赤ちゃんとお母さんに笑顔になってもらいたい。それが私たちの願いです。

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当社独自のペプチド製造技術と新たなアレルゲン性評価方法

当社では、酵素消化に加え、膜分離技術※をはじめとした精製技術を採用することで、適切な風味の維持とアレルゲン性の低減という、従来では相反する目的を同時に達成しています。この技術開発の結果は、当社におけるすべてのアレルギー用ミルクのペプチド製造を支えています。
また、アレルゲン性の評価においても、ペプチドアレイを用いたPep-iEIA法や好塩基球活性化試験といった新しいアレルゲン性の評価方法を開発し、論文化するなど研究を進めています。

※膜分離技術:酵素消化したペプチドを微細な孔がある膜に通すことで、分子の大きさ(鎖の長さ)などでペプチドを分離することができる。

当社独自のペプチド製造技術と新たなアレルゲン性評価方法

社会課題の解決にむけて
〈トリペプチドMKP(エムケーピー)〉

当社では、乳幼児向けミルクの研究開発で培った高度なペプチド製造技術を活用して、お客様の健康課題の解決に貢献する生理活性ペプチドの研究開発を進めています。そのひとつが高齢社会の進展に伴い今後増え続けることが予想される高血圧への対応です。

血圧、特に収縮期血圧は加齢に伴い上昇することが知られています。したがって、世界的に高齢化が進展している現代社会において最も身近な病気のひとつであると言えます。実際、世界保健機関(WHO)によれば、世界にはおよそ12億人を超える高血圧者がいると見積もられています。一方、血圧の上昇は脳卒中や心筋梗塞などの心血管病をはじめとした多くの病気の重要なリスク因子であり、健康で幸せな生活の実現に向けて避けて通ることができない社会課題のひとつとなっています。そこで、当社は高血圧という身近で重要な健康課題を解決することを目標に、ペプチドの研究開発を進めることにしました。

従来から一部の乳由来ペプチドには血圧を下げる効果があることが報告されていました。一方、報告されていたペプチド以外の乳由来ペプチドについては、「どのようなペプチドが存在するのか」、また、「それらのペプチドに血圧低下効果はあるのか」など、ほとんど知られていませんでした。そこで、研究チームは当社が培ってきたペプチド製造に関するノウハウを活用してさまざまな方法で乳たんぱく質を分解した乳たんぱく質分解物(多様なアミノ酸配列を有する乳由来ペプチドの組成物)を調製し、未知のペプチド探索に乗り出しました。探索にあたっては効率的に活性を測定するための方法や多数のペプチドを含む組成物を精密に分離精製する方法、単離したペプチドのアミノ酸配列を正確に分析する高度な分析技術の開発も必要でした。こうした取り組みの結果、開発されたのが当社独自素材である〈トリペプチドMKP〉です。

解明が進む
〈トリペプチドMKP〉のはたらき

トリペプチドMKP

〈トリペプチドMKP〉は牛乳に含まれるカゼインと呼ばれるたんぱく質を食品用の酵素で分解して製造されます。「MKP」はアミノ酸のメチオニン(M)、リジン(K)、プロリン(P)が順番につながった物質であることからその名が付けられました。

〈トリペプチドMKP〉は血圧を上昇させる物質を生成するアンジオテンシン変換酵素(ACE)の働きを阻害します。ACEの働きを阻害すると血圧の上昇が抑制されることが知られていたことから、〈トリペプチドMKP〉には血圧を下げる機能があるのではないかと期待されていました。

トリペプチドMKP
*1 アンジオテンシンⅠ *2 アンジオテンシンⅡ 
*3 アンジオテンシン変換酵素

長い道のりを経てたどりついた
臨床試験とその結果

ヒトを対象とする臨床試験を行うには、さまざまな科学的根拠に基づいて、多面的な視点で安全性、有効性を十分に検討するなど、多くの条件をクリアすることが必要です。これらの科学的知見を積み重ね、臨床試験を実施した結果、〈トリペプチドMKP〉を含むカゼイン酵素分解物には、高めの血圧を有する方の血圧(収縮期血圧)を低下させることが確認されました。

半世紀ほど前に赤ちゃんを救いたいという思いから始まったペプチドの研究は、今では多くの方が直面する社会課題の解決へと大きな広がりを見せています。これからも、ペプチドの持つ可能性を研究し続け、その機能性を活かした食品を開発することで、健康で幸せな社会の実現に貢献していきたいと考えています。

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