研究者インタビュー

大野 和也

大野 和也

基礎研究所
腸内フローラ研究室

病気や後遺症に苦しむ人たちへ新しいソリューションを。
祖母が導いてくれた、研究者への道

幼少期から、祖母が車椅子生活を余儀なくされている姿を見ていました。脳梗塞の後遺症から、身体だけでなく、発話にも不自由があり、本当に辛そうだったことが、子供心にも強く印象に残っていました。その後、高校2年生の時に聴講した再生医療(iPS細胞)の講演をきっかけに、病気や後遺症に苦しむ方たちに、新たなソリューションを届けることができるような研究がしたい、という思いを強く抱くようになりました。

その後大学に進学してからは、記憶や意識、情動などのメカニズムに興味を持ち、脳科学の研究に携わりました。特にアルツハイマー病の発症に関連するたんぱく質を阻害した際に、記憶・学習機能にどのような影響が表れるのか、またその分子メカニズムを電子生理学やイメージング技術を駆使して解明する研究に取り組んでいました。

世界中の子供たちに安全な育児用ミルクを。
という企業姿勢に共感して

森永乳業の研究開発で、私が特に魅力を感じたのは、育児用ミルク事業です。通常の育児用ミルクだけでなく、ミルクアレルギーや低出生体重児、先天性代謝異常など難しい問題を抱える子供たちのための特殊ミルクを開発しており、そのラインアップの豊富さに、「一人でも多くのお子さまに安心して飲んでいただける育児用ミルクを開発したい」という真摯さを感じました。

森永乳業の育児用ミルク・特殊ミルク(一例)
森永乳業の育児用ミルク・特殊ミルク(一例)

また、育児用ミルクの供給を、アジアの新興国に展開していた点にも惹かれました。私自身、学生の頃からHIVウィルスの母乳を介した母子感染に問題意識をもっていました。新興国で育児用ミルクが手軽に入手できれば、HIV(エイズ)に苦しむ子供たちが減るのではないかと考えていました。そのため、アジアへの育児用ミルクの供給を「重要な“栄養インフラ”の一環」と考えている企業としての姿勢に共感し、入社を決意しました。

超高齢社会を迎えた今こそ、
「認知機能」という社会問題に真摯に取り組みたい

大野 和也

私が在籍する腸内フローラ研究室は「腸内細菌の力で健康未来を切り開く」をテーマに、プロバイオティクスが私達にもたらす健康価値を研究し、商品化に繋がるシーズ開発を担っています。
特に、ヒトの腸内に常在するビフィズス菌(HRB, Human Residential Bifidobacteria)の研究に注力しており、私は〈ビフィズス菌 MCC1274〉と認知機能に関するプロジェクトに従事しています。

近年では腸内細菌を含めた腸からの情報が脳に伝わり神経活動が変化し、行動や情動が変容するなど、脳と腸の機能連関である「脳腸相関」が注目されています。たとえば腸内細菌が睡眠リズムや食欲を制御すること、逆に緊張するとおなかが痛くなることなどが知られています。当社ではすでに約10年前から脳機能に着目し、認知機能を維持・改善するプロバイオティクスを探索するプロジェクトを2013年に始動しました。そして2020年に臨床試験において、〈ビフィズス菌 MCC1274〉が認知機能の一部である記憶力※を維持する働きをもつことを確認しました。

認知機能は20年以上かけて、ゆっくりと低下することが知られているため、予防のための対策は40代から実施することが重要です。私たちは、〈ビフィズス菌 MCC1274〉を40代から継続的に摂取することで、記憶力や空間認識力の維持に貢献できるのではないかと考えています。

※記憶力とは、見たり聞いたりした内容を記憶し、思い出す力のことです。

幅広い業種の方たちと協力しながら、
認知機能・記憶対策の啓発に取り組みたい

当社には、ビフィズス菌をヨーグルトなどの乳製品に活用してきた長い歴史があります。〈ビフィズス菌 MCC1274〉もまた、食品として提供することで、お客さまがおいしく、手軽に日々の健康習慣に取り入れていただけるような商品を開発したいと考えています。
また、認知機能・記憶対策の啓発というテーマにおいては、製薬業界や保険業界、検査会社など、幅広い業界の方たちと連携していくことができるのではないでしょうか。その上で、〈ビフィズス菌 MCC1274〉がどのように脳に作用し、認知機能の一部である記憶力を維持するのか、作用機序の解析はやはり非常に重要ですので、これからも研究を継続していきたいと思っています。

大野 和也

「食品」ならではの特徴を生かして
社会問題に起因する不安を解決していきたい

日本に限らず世界中の多くの国で高齢化が急速に進んでいます。また貧富の格差は広がり続け、新興国における健康・栄養問題も大きな問題となっています。当社としては、こうした社会問題に起因する健康上の不安を「食品」ならではの特徴を活かして解決できるように、健康・栄養研究ならびに素材開発を推進し、社会的な価値と経済的な利益の創造を両立させるCSV(Creating Shared Value)に基づくサステナブルな事業を実現していくべきだと考えています。私も当社の一員として、その役割を果たしていきたいと思っています。

大野 和也

Column-1

(参考資料)ビフィズス菌 MCC1274の主な研究成果
継続摂取により認知機能テスト(RBANS)にて複数項目の点数が上昇!

臨床試験を実施した結果、Bifidobacterium breve MCC1274(ビフィズス菌 MCC1274)の摂取により、対照群と比較して、即時記憶、視空間・構成、遅延記憶、言語、注意の5つの認知領域のうち、即時記憶、視空間・構成、遅延記憶の点数が顕著に向上しました。


臨床試験結果

Column-2

ビフィズス菌の取り扱い方法

ビフィズス菌はもともとヒトや動物の大腸など酸素が無い環境にすんでいるため、酸素が苦手で、乳酸菌など他の菌と比べて取扱いには特に注意を要します。
ビフィズス菌を分離するには、おなかの中と同じ環境の温度・嫌気状態で培養し、生育したコロニーを選び取ります。同様の作業を何度か繰り返し、ようやく単一な菌として分離することができます。その後、得られた菌が間違いなくビフィズス菌であるかどうか、DNAをもとに判定します。

ビフィズス菌の取り扱いの様子

ビフィズス菌の取り扱いの様子

また、分離した菌の保存には、凍結法と乾燥法の2種類の方法を用います。凍結法は、保存に必要な処理を行った後、-80℃の冷凍庫で急速冷凍します。乾燥法は、凍結法と同様の処理を行った後、凍結乾燥機を用いて真空乾燥させた状態で密閉保存します。前者は作業が容易で、後者は半永久的に菌が生きていられるというそれぞれのメリットがあり、当社ではその時の状況によって両者を使い分けています。

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