研究者インタビュー

新井 聡

新井 聡

素材応用研究所
プロバイオティクス研究室

食品の保健機能という新しい価値を見つけたい

学生時代の専攻は、植物を用いた分子生物学や遺伝子工学です。植物の遺伝子を操作する遺伝子組換え技術を用いて、私たちの生活に役立つ物質を、植物組織の中で生産する、といった研究ですね。私はトマトに遺伝子組み換えを行い、その果実に生分解性プラスチック※を作らせる、という研究に取り組んでいました。植物を用いた物質生産法(分子農業技術)は、光合成によって必要な炭素源を作ることができるので、究極的には環境負荷が非常に少ない生産法です。どうしたら目的とする量や物性を持った生分解性プラスチックを効率的に作れるのか、トマトを育てながら考える日々でした。

植物を用いて研究をしていたこともあり、農業や食品に関する研究に興味を持っていました。学生時代を過ごした2000年代はさまざまな特定保健用食品(トクホ)が出てきた時期で、食品の機能性について関心が高まっていました。トクホは国の審査のもとに保健機能の表示の許可を受けた食品のことで、有効性、安全性などの科学的根拠(エビデンス)を適切に示すことが必要です。研究に基づいて食品の保健機能という新しい価値を見つけ、それをきちんと伝える仕事をしたい、と考えたのが森永乳業に入社を決めた理由のひとつです。

※生分解性プラスチック:自然界において微生物が関与して環境に悪影響を与えない低分子化合物に分解されるプラスチックのこと

プロバイオティクスの可能性を追求し
より付加価値のある機能性食品を開発

私が所属する素材応用研究所プロバイオティクス研究室では、「プロバイオティクス」と呼ばれる微生物の保健機能について研究しています。
プロバイオティクスは人体に有益な作用を与えてくれる、生きた微生物のことです。皆さんも聞いたことがあるかもしれませんが、ビフィズス菌や乳酸菌の一種などはプロバイオティクスの代表例ですね。私たちの目標は、ビフィズス菌や乳酸菌といったプロバイオティクスの可能性を探求し、科学的エビデンスによって付加価値が付いた機能性食品を開発することで、人々の健康で元気な毎日に貢献することです。

新井 聡

私自身はこの研究室で、加熱殺菌された乳酸菌の機能性における基礎研究や臨床研究を担当してきました。
「プロバイオティクスは生きた微生物なのに、なぜ殺菌されているの?」と疑問に思われる方もいるかと思います。殺菌された乳酸菌であっても、その成分に免疫調節作用のような生理機能が期待できると考えられていて、さまざまな研究報告がなされ、注目分野となっているのです。

7年の研究開発期間をかけた
〈シールド乳酸菌®〉の大きな可能性

プロバイオティクスは生きた微生物なので、食品へ応用する場合には生きた状態を保持するため食品の温度、酸素、pHなどの管理に配慮が必要で、発酵乳やサプリメントのように配合できる食品形態も限られたものになる場合が多いです。一方、加熱殺菌体では活用できる食品の幅が大きく拡がる可能性がありました。当社では殺菌体の持つ機能性として免疫調節作用に着目し、2007年から7年間の研究、開発期間をかけて〈シールド乳酸菌®〉という加熱殺菌体の製品化を実現しました。

私が基礎研究として担当したのは、〈シールド乳酸菌®〉の感染防御作用メカニズムの検証です。一部の乳酸菌やビフィズス菌はヒトの免疫に作用して、呼吸器や腸管での感染を予防・軽減することが報告されています。腸管や気道などの粘膜組織では、IgAと呼ばれる抗体の分泌が、病原体やウイルスに対する防御機能の中で重要な役割を果たしていますが、〈シールド乳酸菌®〉も腸管のIgAの産生を促進していることを明らかにしました。

シールド乳酸菌のlgA産生作用の推定メカニズム

シールド乳酸菌®
シールド乳酸菌®

〈シールド乳酸菌®〉は加熱殺菌体で、また熱や酸でも性質が変わりにくいため、さまざまな形態の食品に配合することが可能です。さらに、少量で機能性を発揮することから、配合する食品の風味に影響を与えないこともあり、すでに当社商品のヨーグルト、大人用粉ミルク、流動食のほか、BtoBのお客さまを通じて味噌汁、飲料、お菓子、調味料など多種多様な食品へ配合され、普段の生活で健康をサポートする素材として活用されています。さらに、〈シールド乳酸菌®〉は〈LAC-Shield™〉として海外でも販売されており、米国をはじめとした海外でも展開が拡がってきています。

一人でも多くの方にプロバイオティクスの
可能性と価値を伝えていきたい

新井 聡

現在、超高齢社会を迎えている日本では、健康寿命の延伸や“Well Being”の実現は大きな課題です。
この課題の解決に向けて、ビフィズス菌や乳酸菌の保健機能に関する科学的エビデンスを分かりやすく情報発信することで、ひとりでも多くの方にプロバイオティクスの価値を知ってもらいたいと考えています。
今後はより一層、さまざまな食品形態への応用技術も高め、日常の食事の中で当たり前にプロバイオティクスを摂取できるようになることで、健康寿命をプラス5年伸ばし、健康でかがやく笑顔をつくることが目標です。

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