ラクトフェリンとは? 感染防御作用や免疫調節作用を解説

ラクトフェリンは、乳や唾液、涙液、鼻汁の他、免疫に関わる好中球にも存在しているタンパク質の一種です。中でもヒトの初乳(出産後数日間に分泌される、栄養豊富で免疫物質を多く含む母乳)に多く含まれ、生まれたばかりの赤ちゃんを病原体から守り、健やかに育む力が注目されています。しかし、ラクトフェリンの機能が確認されているのは赤ちゃんだけではありません。健康維持に欠かせない感染防御や免疫調節など、体にうれしい様々な作用を解説します。

監修者
プロフィール

冨田信一(とみた・しんいち)先生
冨田信一(とみた・しんいち)先生
玉川大学 農学部 先端食農学科 教授
1967年 千葉県出身。2014年より玉川大学農学部教授。主な研究に、「母乳の生理活性物質」「微生物機能の解析」等がある。

1.ラクトフェリンとは?

牛乳に含まれる「赤いタンパク質(レッド・プロテイン)」として発見
ラクトフェリンは、ヒトを始め、多くの哺乳類の分泌物の中に元々含まれている天然のタンパク質の一種です。1939年にデンマークの科学者によって、牛乳に含まれる「赤いタンパク質(レッド・プロテイン)」として発見されました。

その後の研究で、牛乳以外にも、多くの哺乳類の乳に含まれることが分かりました。中でも特に豊富なのが、出産後の数日間に分泌されるヒトの初乳です。初乳には100mL当たり約600mgのラクトフェリンが含まれており、その量は牛の乳の10倍以上にも上ります。

生まれて数時間後には自らの足で立ちあがる他の哺乳類に比べて、ヒトの新生児はか弱く、外部の細菌やウイルスに対する抵抗力が未発達です。ラクトフェリンには、生まれた途端に多種多様な病原体にさらされる赤ちゃんを守る働きがあると考えられ、世界中の多くの機関で様々な研究が進められてきました。

こうした研究によって、母乳以外にも、唾液、涙液、鼻汁、胆汁などの分泌物や、免疫に関わる好中球顆粒(かりゅう)にも存在することが分かっています。つまり、ラクトフェリンは新生児だけでなく、私たちヒトの体を守る免疫システムの一部といえる成分なのです。

2.ラクトフェリンの特徴と2つの作用

ラクトフェリンの特徴と2つの作用
ラクトフェリンは「鉄結合性糖タンパク質」と呼ばれ、ラクトフェリンという名は「ラクト(乳)」と「フェリン(鉄と結合する性質)」に由来します。その名が示すとおり、最大の特徴は鉄と結合する点にあります。発見された当初に「赤いタンパク質」と呼ばれていたのは、鉄と結合しやすい特性から、赤みがかった色をしているためです。

この「鉄と結合する」という特性が、ヒトの体内に様々な良い作用をもたらしています。

ここでは、特に注目される2つの作用についてご紹介しましょう。

【ラクトフェリンの作用】

●感染防御作用
感染防御作用
ラクトフェリンの機能として広く知られているのが、外部からの病原体の侵入を防ぎ、感染を防御する作用です。

そもそも、多くの細菌類は鉄がなければ生きられません。鉄と結合しやすいラクトフェリンが、細菌の増殖に必要な鉄を奪い、鉄欠乏の状態にすることで細菌の増殖を抑えてくれます。それにより感染を防ぐと考えられています。

鉄を奪って増殖を防ぐ以外にも、ラクトフェリンは細菌に直接くっつき、細胞膜にダメージを与えて殺傷することもできます。また、ラクトフェリンがウイルスや細胞の表面に貼りつくことで、ウイルスの細胞内への侵入を抑え込むこともできます。


●免疫調節作用
免疫調節作用
ラクトフェリンには、ヒトに元々備わっている免疫システムの働きを助け、感染を抑制する免疫調節作用もあります。免疫とは、感染症を引き起こす様々な病原体などの異物を体から排除し、健康を守る働きのことです。

ウイルス感染の早期防御において、免疫細胞の司令塔に当たるのがpDC(プラズマサイトイド樹状細胞)です。pDCは普段は眠っている細胞ですが、ひとたび外部から侵入してきたウイルスを検知すると、直ちに活性化して、体内の様々な免疫細胞に働き掛けることで活性化を促します。

ラクトフェリンの摂取により、pDCを活性化させることが臨床試験で確認されています。これは、pDCにはラクトフェリンを取り込む受容体があり、取り込まれたラクトフェリンがウイルスを検知するセンサーの感度をアップさせるためだと考えられています。

他にも、ラクトフェリンが活性化する免疫細胞には、以下のようなものがあります。

・B細胞
B細胞から分化した形質細胞は、体を守る免疫物質である抗体を作ります。「IgA(免疫グロブリンA)」は、消化管や気道の粘膜などを守る抗体の一種。ラクトフェリンはIgAを増やし、呼吸器関連や下痢などの消化器関連の症状を防ぐ働きが期待されます。

・ナチュラルキラー(NK)細胞
NK細胞はウイルスに感染した細胞を殺傷します。ラクトフェリンはNK細胞の働きを活性化すると考えられています。

・好中球
白血球の大部分を占める好中球は、侵入してきた病原体を取り込んで分解することによって感染を防ぎます。ラクトフェリンは好中球が病原体を取り込む活性を高めます。

他にも、ラクトフェリンは鉄代謝を調節してヘモグロビンやフェリチンを増やす作用や、過剰な皮脂の分泌を抑えて肌の炎症を軽減するなど、様々な働きがあることが報告されています。

3.ラクトフェリンの感染防御作用は、体の様々な部位で発揮される

ラクトフェリンの感染防御作用は、体の様々な部位で発揮される
ラクトフェリンの感染防御作用には「直接的作用」と「間接的作用」の2つのパターンがあります。実際に、ラクトフェリンの感染防御作用として、体の様々な部位で次のような作用が確認されています。

●直接的作用
ラクトフェリンが病原体の付着を抑制する、細菌の増殖に必要な鉄を奪う、細胞膜に損傷を与える、バイオフィルムの形成を抑制するなどの働きにより、感染を抑制します。

・口腔
軽度慢性歯周炎の人が、ラクトフェリン配合錠菓を1日1.8g、3カ月間摂取した結果、ラクトフェリンを含まないプラセボ食品を摂取した人と比較して、歯と歯茎の間に付着したプラーク中の歯周病原細菌が減少したこと※1が報告されています。
※1 Kondo I et al. 2008. Nippon hozon shikagakuzasshi.51:281-291.

・扁桃
A群溶血性連鎖球菌(一般的に「溶連菌(ようれんきん)」と呼ばれる細菌)による扁桃炎に感染した小児が、抗生物質治療に加えて、ラクトフェリン100mgを溶かした水を口に含み、1日3回、25日間うがいをした結果、抗生物質治療だけの小児と比較して、扁桃の溶連菌の数が減少※2しました。
※2 Ajello M et al. 2002. Biochem Cell Biol.80:119-124.

・胃
ピロリ菌を保菌している人が、ラクトフェリン400mgを配合した食品を12週間摂取したところ、ピロリ菌数の指標である尿素呼気試験(UBT)の値が半減した人の割合が、ラクトフェリンを含まない食品を摂取した人と比べて多い※3ことが分かりました。
※3 Okuda M et al. 2005. J Infect Chemother.11:265-269.

・腸
生後4~6カ月の乳児が、ラクトフェリン配合の育児用ミルクを1日35.8mg、3カ月間摂取した結果、ラクトフェリンを含まないミルクで哺育した乳児と比較して、下痢関連疾患の発症率が低下した※4と報告されています。
※4 Chen K et al. 2016. Nutrition.32:222-227.

●間接的作用
ラクトフェリンは体内の免疫システムに作用して、免疫を介して間接的に感染を抑制するケースもあります。

・呼吸器
生後4~6カ月の乳児が、ラクトフェリン配合の育児用ミルクを1日35.8mg、3カ月間摂取した結果、ラクトフェリンを含まないミルクで哺育した乳児と比較して、呼吸器関連疾患の発症率が低下した※5と報告されています。
※5 Chen K et al. 2016. Nutrition.32:222-227.

・皮膚
軽度の足白癬(水虫)のある人がラクトフェリン2gを配合した食品を8週間摂取した結果、ラクトフェリンを含まない食品を摂取した人と比べ、皮膚症状が改善※6しました。
※6 Yamauchi K et al. 2000. Mycoses.43:197-202.

まとめ

ラクトフェリンは様々な部位で、私たちの体を守ってくれています。感染防御以外にも、たくさんの良い機能を持つことから、「多機能タンパク質」とも呼ばれているラクトフェリン。赤ちゃんはもちろん、大人や高齢者にとっても、その働きは見逃せないものとなっています。