2017年09月21日 研究開発

IgAの腸内細菌に対する反応性の低下が加齢に伴う腸内菌叢の変動に関係
~科学雑誌『Frontiers in Microbiology』(9月12日)掲載のご報告~


 森永乳業は、IgA(免疫グロブリン A)の腸内細菌に対する反応性と加齢に伴う腸内菌叢の変動との関係について、奈良先端科学技術大学院大学 新藏礼子教授と共同研究を行い、評価いたしました。

<研究の背景と目的>
 当社は、育児用ミルクを開発する過程で赤ちゃんの腸内フローラに着目し、腸内フローラ研究をおよそ50年前から行っております。2016年5月に論文公開された当社の基礎研究結果*1では、日本人の各年代における
健常者の腸内細菌叢バランスを明らかにし、60~70歳代以降にビフィズス菌の減少や大腸菌等の増加が顕著であることを確認しましたが、その変動原因はいまだ明らかにされていません。
 一方で、腸管に存在する免疫機能もまた加齢に伴い変化し、抗原特異的な免疫グロブリンの反応も加齢で
減衰することが知られています。中でも腸内環境においてIgAは主要な抗体のひとつであり、腸内細菌に結合し、有害菌の排除など腸内細菌を制御する上で重要な役割を担っていると考えられています。しかし、加齢に伴うIgAの量および反応性の変化の有無と、腸内細菌の変化との関係性については、十分な研究が行われてきませんでした。
 そこで、今回、奈良先端科学技術大学院大学新藏礼子教授との共同研究にて、IgAの腸内細菌への反応性の低下が、加齢に伴う腸内細菌の変動に関与していることを明らかにしました。
 
 なお、本研究成果(Decreased Taxon-Specific IgA Response in Relation to the Changes of Gut Microbiota Composition in the Elderly)は、オンライン科学雑誌『Frontiers in Microbiology』(9月12日付)に掲載されました。

<結果の概要>
1.成人と高齢者の腸内細菌叢比較
 健常成人と比較し、健常高齢者の腸内菌叢はビフィズス菌の属するBifidobacteriaceae(ビフィドバクテリアッセ)の割合が有意に低く、病原性や炎症を引き起こす細菌群が属しているClostridiaceae(クロストリジアッセ)とEnterobacteriaceae(エンテロバクテリアッセ)の割合は有意に高いことを確認しました。

2.糞便中IgA濃度とIgA結合細菌の割合
 一方で、糞便中のIgA濃度およびIgAが結合している腸内細菌の割合には有意な差が認められず、腸内IgAの量的な変動および腸内細菌全体に対する反応性の変化はありませんでした。

3.各細菌に対するIgAの反応性
 個別の細菌群に対するIgAの反応性を評価したところ、健常高齢者で占有率の高かったClostridiaceaeとEnterobacteriaceaeに対するIgAの反応性指標(IgA-index)は、健常成人と比較して有意に低い値を示すことが明らかとなりました。

以上のことから、高齢者の腸内では一部の細菌に対するIgAの反応性が低下し、その結果それらの細菌がIgAにより制御されずに増殖しやすい状況である可能性が示されました。


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